男は吸血鬼の本性を隠し、艶やかな細い笑みを作る。
それは人間の女を誑かすための、夜族が得意とする優美な微笑み。
「今までさんざん主殿を所望してきたが、この時まで交渉は不成立のままだ。この機会に女にしか味わえない喜悦をその身に受け入れてみてはいかがかね?人外の魔物が与える快楽ならば、その気塞ぎの憂鬱も忘れられる。」
そうして体躯に似合わぬ静かで優美な動きで、自分の頬を女の頬へと寄せた。
人間の女の温かい頬と、死人の体を持つ冷たい男の頬がそっと重なる。
その姿勢のまま、メフィストフェレスは女を誘う言葉をつむぐ。
「お前のような美しく誇り高い女が、あんな醜い人間の男の謂れのない侮辱で傷つくことはない。私がお前を快楽の旅路へといざなおう。
さあ、今度こそ、『諾』と。主の美しさとその鼓動に魅惑された哀れなお前の下僕に応えを。お前の快楽の扉を開ける鍵穴に合う鍵を持つのは私だけだ。さあ返事を寄こせ、我が主。」
女を魅惑すべく、魅了の声音を使い低くその耳元でつぶやく。
その時女がゆっくりと右手を動かし、その手のひらを鼓動を刻まぬ男の心の臓の上に置く。
男はその手の温かさに、女が自ら触れたその意思に、身を震わすほどの衝撃を覚えたのだが、その衝撃が表に現れることは皆無と言ってよかった。
そう、この男は常に無情と無関心を装うのだから。
「吸血鬼のお前とチーク トゥ チークか。これが普通の男と女なら『Heaven, I'm in heaven』(まるで雲の上、夢見心地のよう)となるんだろうが、残念なことに私は吸血鬼を狩る狩人(ハンター)なんだ。人を誑かすメフィストフェレス。人の気落ちに付け込む吸血鬼が。」
女は低い声で頬を寄せたまま、静かに男を拒絶する。そして口には不敵ともいえる笑みを刷いた。
男は、その答えを聞くと「それは残念。とても残念だ。」とだけゆっくりと口にして、艶やかな笑みを刷いたまま己の丈長く伸びた髪を片手でロープのようにひねり、その漆黒の髪で出来上がったロープをぐるりと回す。
頬を寄せる女の首と魔物の自分の首を、漆黒のロープを回してゆるく縛り付け、吸血鬼の冷たい頬と女の頬がはなれぬよう、自分の髪で女を拘束する。
「俺は、まさしく『Heaven, I'm in heaven』なんだがね。お前の頬の温かさは、化け物(フリークス)を魅了して止まないものだ。
お前のHeavenへの扉を開くのは、俺の持つ鍵だけだと覚えておくがいいさ、我が主。」
吸血鬼が、神の恩恵からはずれた禍々しく忌まわしい死にぞこないの男が、『Heaven』とは。
女は、男が口にしたその言葉に官能よりも哀惜を感じたのであった。
ということで、浮かんだ妄想タレ流し。
これはジャズナンバー「チーク トゥ チーク」を聴いた時浮かんだ妄想。
ANAのCMでも使われたHeaven, I'm in heaven〜という歌詞がいい!
というか、これ「ふたりでお茶」をの旦那視点話で使いたいかも。
著作権と戦時加算を調べて、使えるかどうか検討してみます。
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