数日前の食卓
その日は仕事がちょうどいい具合に夕方に切れ、
いつもより早く夕食の席に着く。
女は普段から、俗に言う夕食を口にしない。
その口に含むのは、いつもグラス3杯の酒と、夕餉のおかず少しだけ。
その席の前に座った男は、夜に大切な仕事の打ち合わせを控え
今晩は飲むことはなく、ただ食事をするのみ。
「上司が飲めないと言うのに、お前はひとりで酒を楽しんで良心が痛まんのかね?」
先日貰った上等のフルボディの赤ワインをひとり楽しむ女に向かって男は問う。
「アナタに対する良心が、私にあるとでも?」
「ふんっ!」男は鼻息を荒くして、また食事に向かう。
流れるのは男の好きなブラームスのシンフォニーNo.1
また暫くして、男が口を開く。
「お前は食欲はなくても、イン欲だけは旺盛な女だ。大したもんだ。」と。
「・・・ワタクシ、ご主人さまから讃えられるような淫欲など持ち合わせておりません。」
女は真顔で返事をする。
男は不可解な顔をして眉根を寄せて、眉間のシワをさらに深くして見せる。
そしてしばらくの沈黙ののち、こう言った。
「いん欲とは、『飲む』欲のことだ。お前、何だと思った?」
女は男の顔を見つめ、しれっとした顔で言葉を返す。
「インヨクといわれれば、普通に『淫ら』な欲のことだと。」
「・・・普通に『淫ら』なのか、お前は。大した馬鹿だ。」
あきれた顔の男を無視し、女はまた【飲欲】に溺れるのだった。
これが、数日前の我が家の食卓。
淡々と書いてみたら、ギャグ以外の何ものでもなくなった(笑)
日本語って難しい・・・
「インヨク」って言われれば、「淫欲」にしか変換できません<私の場合
そこで脳内変換「飲欲」にならなければ、BOSSの執事兼秘書は本来務まらないのかもしれない。
(つうか、ひとりで飲む時点で執事失格なんですが)
で、これがあってすぐさま、ワインを飲みながら脳内で旦那・局長変換が始まりました。
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仕事が忙しく、ハイティーもとれなかった日の夜更け、女は自室に戻ると倒れるようにソファに腰を下ろす。
―何か食べなくては、体が持たない。明日もこの調子できっと忙しいだろう・・・
と思うと、職務に忠実な女は体を維持するための「食べ物」を何か口に入れようと考えた。
確かメイドがパルマ産の生ハムとフルーツを切ったものを冷蔵庫に準備していたはず。
それを思い出すと、重い体をなんとか動かし、冷蔵庫から綺麗に盛り付けられた生ハムを取り出す。
そして、ワインセラーから取り出したのはボルドーのサンテミリオン産の赤ワイン。
メドックと双璧を成す、赤のワインを産するサンテミリオンの中でも、もちろん格付けはグラン・クリュ。
いつもは空気を含ませて、ワインの味を落ち着かせてから飲むのだが、疲れた体を引きずる彼女に正直その余裕は無い。
コルクが硬かったかったため、いつもよりやや乱暴に栓をあける。
そして、オリが浮かないよう、静かにグラスへと注いだ。
色と香りを楽しみ、口に含む。
口の中でさらに転がして味わい、鼻腔でその深い味わいを堪能する。
こうなると、「食べる」ことより「飲む」ことのほうに重点が移ってしまう女。
あっと言う間に1杯目のグラスを空にして更に注ごうとした時に、壁をすり抜け従僕の男が主の部屋に侵入してこようとするのを見つけた。
「帰れ。」疲れた女は唯ひとことだけ冷たく男に言い放つ。目も冷え切った冷たい炎。
ノックをしろとか、ドアを使えとか、そんな小言を言う気力もないらしい。
普段誰がどこで見ているかわからない場所では絶対に疲れた様子などみせない女が、今日はその疲労をさすがに隠せない様子だったのが珍しく、性悪な男は主をからかいにやってきたのだ。
「なんだ、疲れてる様子だったがそうでもないのだな。ワインを楽しむ気力はあるらしい。」
男は口元に笑みを刷き、つれない主を眺める。
「飲んでるんじゃない。『食べて』るんだ!」
女はそう言うが、生ハムにも芳香を放つラ・フランスにも全く手はつけていなかった。
―どう見たって飲んでるだけではないか。食べていないだろう。
そう思った男は、「お前、食欲はなくてもイン欲は旺盛だな。」と女を揶揄した。
その男の顔を見ながら、眉根を寄せ眉間にシワを寄せる女。
「吸血鬼のお前に揶揄されるような淫欲などもっておらん。」
女は侮蔑の表情で言い放つ。
その女の顔をしばし眺めてから、男は片眉を器用に跳ね上げる。
「お前が旺盛なのは『飲む』欲だ。いったい何だと思ったんだ。」
「あぁ・・・そっちか。イン欲といったら普通に『淫ら』な欲だろう。まぎらわしい。」
女は、いかにも下僕が馬鹿だと言わんばかりの顔をして、さらに豊かな味わいの赤い色の飲み物をあおる。
「おい、お嬢さん、普通に『淫ら』な欲とは面白いぞ!お前は最高だな。では、私は淫欲を持て余す吸血鬼として、主の期待を裏切らない行いをさねばならない。」
そう言うと男は、ニヤリと性質の悪い笑みを浮かべながら、主へと肉食の獣の鋭さと静かさで忍び寄る。
「帰れと言ったろう!私は疲れているんだッ!!」
そう言うと女は素早く愛用の32口径の銃のスライドを引きセーフィティをはずして、トリガーを引く。
立て続けに六発、全部従僕の額に撃ち込む。
「うせろ、馬鹿者が。」
女は静かに冷たく言い放つ。
口振りは氷そのものでも、ブルーの瞳は炎熱の怒りだった。
「これから快楽の夜が始まるというのに、やれやれ、情緒の無いお嬢さんだ。」
しかし、こんなことで男が懲りるはずも無い。
額から血を流しつつも、口を耳元まで裂いた凶暴な笑みを浮かべ、楽しそうに牙をむいて笑う男。
それは地獄の様相。
疲れている主に無体なことをしようと心弾ませる従僕と、疲労がピークだと言うのにしつけが出来ず主を悩ます犬狗との攻防に身構える女主。これから戦いの夜が始まろうとしている・・・
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う〜ん、旦那と局長だとこんな感じ?
だったら、執事と局長だったら〜とか、さらに考える。
うふふ〜執事相手だったら、きっと局長はさすがに照れるかもしれない!
じゃあ、隊長だったらどーーーだろう。局長の天然ぼけっぷりに素直にノックアウトされそう♪
そして意外と楽しめるのは、セラスかもしれない!
「インテグラ様って、意外とむっつりスケベだったんですね・・・普段、マスターとどんな会話をなさってるんですか?!」とか言いそうだ。(で、局長内心困惑・・・♪)
などと色々一人で飲みながら妄想モード。
その挙句、「ひとりで飲んでいても、お前はえらく楽しそうでうらやましいぞ。」
とBOSSに揶揄されるハメになる妄想馬鹿なのでしたorz
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